
あらすじ
5人協力前提のデスゲームに、担当者のミスで2人しか来ていない。
めんどくさくなったGMはそのままゲームを開始。主人公は異常な難易度のゲームをさせられるハメに…。
普通に考えてクリアできない難易度に、絶望する主人公。
だが、そんな彼と同じく、デスゲームを受けさせられる男がいた。
そして何を隠そう、その男は現代に生き残った真のカウボーイだった。
「荒野じゃ、舐めた奴ほど逃げ道を忘れる」
第一話
シンジはもう一度深呼吸した。
眼の前にある1枚の扉。青く錆のある金属で出来た扉で、魔術的な意匠が施されている。
GMの話によると、これが最後のゲームだ。ごくり…。シンジは思わず唾を飲み込んだ。
彼は隣に立つレンと目を合わせた。レンは何も言わなかった。ただ、肩で呼吸を整えようとしている姿が、前の部屋でどれほど体力を消耗したのかを物語っていた。
「……俺がやるしかない」
シンジは決意する。ここまでレンに頼りっぱなしだった。今度は自分が頑張る番だ。そう叫びながら、シンジは扉を勢いよく開けた。
「次のゲームは何だ!」と、勇ましく部屋の中へと足を踏み入れる。
そこは体育館のような広い空間だった。
白い壁に囲まれた無機質な空間。天井も高く、これまでの部屋にあったギミックのようなものはなにもない。ただ、そんな中、一際目を引くものがそこにはあった。
「な、なんだこれ……?」
シンジの視線の先。部屋の中央に、巨大な獅子像が3体、不気味に佇んでいるのだ。
古代中国の宮殿を守護するような重厚な青銅製の獅子像で、どれも大きさは2メートルあり、本物かそれ以上の大きさだろう。身体は鈍く光る緑青に覆われ、牙と爪だけが鋭利に研ぎ澄まされたかのようにぎらついていた。
「ただの飾り…なわけないよね?」
と、シンジが震えた声でつぶやいたその時だった。キュイーンと、像の目が不気味な赤い光を放ち、耳障りな金属音とともに首をこちらに向けた。まるで長い眠りから目覚めるかのように、重厚な四肢がゆっくりと動き始める。全身の継ぎ目が擦れ合い、不快な音が部屋中に響き渡った。
「嘘だろ……!」
獅子像が口を開き、鋭い牙の間から高熱の蒸気を噴き出した。
そしてそれらは一切の迷いなくその巨体を揺らし、床を踏み砕きながらこちらに突進して来る!
「危ない!」
あまりの恐怖に足が一歩も動かなかったシンジ。そんな彼を、後ろからレンが思いっきり突き飛ばした!「ぐああああああ!」
吹き飛ばされ、数メートルほど床を転がるシンジ。けれど、そのおかげで間一髪で攻撃を避けられたようだ。
彼は痛みに耐えて起き上がると、すぐにレンの姿を探した。自分の身代わりで負傷していないだろうか?
「レン、大丈夫か!」
シンジはさっきいた場所に視線を戻す。
するとその瞬間、レンは猛スピードで突進してきた1体の青銅獅子の背中に、鮮やかに飛び乗っているところだった。「な、何してんだよ……あいつ……!」
猛然と暴れる青銅獅子の背中で彼は片手を天高く掲げ、揺れる身体で必死にバランスを保っていた。両脚に思いっきり力を入れて獅子の首を挟み、その姿はまさに地獄のロデオ。残る2体の獅子はそんな彼を殺そうとして、手が出せないでいる。
「あいつ……凄すぎる!」
だがそれと同時にシンジは気づいている。そうしているレンの表情に、余裕は一切ないことを。あの状態で、何分持ちこたえられるかは分からない。シンジは考える。
これがデスゲームなら、必ず答えがあるはずだ。青銅獅子が3体ともレンに引き付けれている今、考えるチャンスだ。
「なにかないか…なにかないか…?」
そうして部屋全体を改めて見渡すシンジ。すると彼は部屋の隅に、入口とは別の扉を見つけた。
無数のリベットや鉄板が武骨に打ち込まれた木製の扉で、その上にはペンキで大きく「WEAPONS」の文字が書かれていた。
これだ。
シンジは「レン、もう少し耐えてくれ…!」と言うと、ダッシュでそこへ向かった。
息を切らしながらそこへ辿り着くシンジ。鍵はかかっていなかった。躊躇なくその部屋に入る。その中は予想通り武器庫だった。
しかもお助けアイテムレベルではなく、本格的な武器庫になっていた。
広い空間に武器がぎっしりと詰まっている。ライフル、ショットガン、ナイフ、メイス、竹槍――銃器から鈍器、剣や盾など、ここには考えうる全ての武器があった。その種類も豊富ながら、全部きっちり5セットあって予備もしっかり完備されている。
つまりこの第三のゲームは、とにかく実力で獅子を倒せということだ。「なにか…使えそうなもの……」
彼は倉庫内を駆け回り、使える武器を探した。自分でも扱えて、かつ青銅獅子を倒せるものを。
「ああ、もうこれしかねえ!」
レストランのメニューとは違う。迷っている暇はなかった。
部屋の奥のコーナーは銃器のコーナーだった。机の上にハンドガンやアサルトライフルなど、映画でおなじみの武器がそれぞれ5つセットで並べられている。
そこから彼はアサルトライフルを手にした。
サバゲーをやっていて知識があった。どれくらい通用するかはわからないが、やってみるしかないだろう。マガジンポーチも着けて彼はすぐに走り出す。
「レン…耐えてくれ…!」来た通路を通って、武器庫の扉まで戻ってくるシンジ。
だが、そうして彼が、ドアノブに手を伸ばしたまさにその時だった。
「…………」
思わずその手がピタリと止まる。彼は振り返り、今一度、武器庫全体を見渡した。
ハンドガン、メイス、ロングソード――。
ここにあるたくさんの武器。
どの棚も同じものが5セットずつ整然と並べられている。
そう。
すべて5セットずつあるのだ。
そして彼の今手にしているアサルトライフル。これも当然同じものが5つ用意されていた。彼は今までのゲームについても同時に思い出した。
第一のゲーム、明らかに探索時間が足りなかった。
第二のゲーム、明らかに回答者と走者が足りなかった。
そしてこのゲーム。共通しているのは、どれもあまりにも不可解な難易度だということ。
それは彼の心の奥にずっと引っかかっていた違和感だった。
ゲームやルールが鬼畜ということではない。それとは別のところで難易度が上がっているような感覚。「まさか……!」
胸が不自然に鼓動を打ち始める。嫌な予感が全身を駆け巡った。
シンジはゆっくりと顔を上げ、壁に設置された監視カメラをじっと睨みつけた。
「……おい、聞いてんだろ」
彼はGMに向かって問いかける。
一つ確認だが―――、と彼は言う。
「このゲーム、プレイ人数あってるか?」薄暗い制御室。
青白い光を放つモニターを覗き込んでいたGMの口角が緩やかに上がり、不気味な笑みを浮かべる。
ククク…、と人をバカにするような笑い声がスピーカーから流れた。
彼は満足気に通信スイッチを押すと、可哀想なシンジに向かってこう告げた。
「悪いな。このデスゲーム5人用なんだ」